『公益法人』2022年6月号(通巻598号)より転載
https://kohokyo.or.jp/kikanshi/kikan_2022_06/
公益財団法人である民間の助成財団にプログラムオフィサーとして十数年勤務した後、縁あって2019年に国立大学へ教員として赴任した。財団退職の際、寂しいけれどこれで公益法人業界(?)ともお別れかと思ったが、その実まったくそのようなことはなかった。教育とは、公益に関わる最たるものの一つだからである。そして昨今、国立大学の懐事情は大変厳しい。自前の予算だけではとても賄い切れない。
当方、大学では授業に加えて、舞台公演の企画制作を生業として受け持っている。ジャンルを横断する複合的な要素と多くの人々が絡む総合芸術であり、(事後に動画配信などの選択肢もあるものの)基本はその場限りのライブを身上とする舞台公演の制作には、とにかくお金がかかる。かくして、さまざまな財団様から公演実現のために助成金を獲得するべく、申請書作成に勤しむ日々である。助成金を出す側から受ける側へ立場が180度変わったわけだ。
財団に在籍していた当時、応募を検討している方々から事前に相談を受ける機会がよくあった。「こうしたほうがよい、ああしたほうがよい」と、自ら企画した助成プログラムの趣旨にもとづいて偉そうにアドバイスを垂れていたわけであるが、いざ自分が申請する身になってみると、言われたことがそんな簡単にできれば苦労はない。これまで応募者の方々にさぞ無茶な要求もしていたのだろうなと痛感される。また、一つの公演に複数の財団から助成をいただくこともあるが、財団によって対応や求められる提出物、オブリゲーションもそれぞれに異なるので、その違いを、身をもって体験できるのは面白い。芸術という特定領域には限られるが、自身が財団にいたときよりも、各財団の個性や特徴について詳しくなっているかもしれない。
かつて公益セクターに籍を置いた身、今現在はそのサポートをいただいている身、想像もしていなかったキャリアだが、奇しくも二つの立場を経験することとなった。双方が実りある関係を築いていけるための橋渡しとして、微力ながら力を尽くしたい。
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